Forgiveとallowと許すと赦すとpardonの話
- Lapack
- letとallowの使い分けの続編ですがこの記事も独立して読めます。
- ※筆者は日本語ネイティブであり語学の専門家でもなければ外国語圏に数週間以上滞在したこともありません。したがって、その事実に応じた程度の目線でもって読んでほしいです。
- OALD=Oxford Advanced Learner's Dictionary
forgiveとallow
forgiveとallowはどちらも受験的直訳においては「許す」と訳される英単語である。しかしその実際の意味内容は全く違っている。簡単に言えば、forgiveは何か嫌なことをした相手に怒ることをやめて「許す」のに対し、allowは相手が何かをすることを「許す」のである。より正確には、OALDによれば、
- forgive: to stop feeling angry with sb who has done sth to harm, annoy or upset you
- allow: to let sb/sth do sth.
との定義が最初に登場する。allowは「許可」の意味での「許す」だと言い換えてもよいだろう。
他方、日本語の「許す」の意味はこの両方を含んでいる。学研現代新国語辞典第五版によれば、
- [願い・申し出などを]聞き入れて、良いと認める。許可する。
- 差しつかえないと認める。許容する。
- 罪をとがめるのをやめる。
- 義務・負担を免除する。
- ゆるめる。
のような意味がある。なお例文を省いたので5番目が特にわかりにくいと思うが、これは「気を許す、心を許す」という時の意味を指している。なお、3,4の意味の「許す」は「赦す」と書くこともできるし、5の意味は「宥す」または「恕す」とも書かれるらしい。5の方はなじみがないが、「赦す」は「恩赦」や「特赦」を思い出せばよい。
以下の考察では、5の意味についてはひとまずわきに置くことにする。
さて、おおざっぱに言えば、allowの方は1, 2, 4に対応し、forgiveは3に対応している。(4について、allowanceという名詞を「値引き」の意味で用いることがある)allowを3の意味で用いたり、forgiveを1,2,4の意味で用いたりすることがないとは筆者の知識では言い切れないが、少なくも多く使われる用法ではないはずである。
このように日本語と英単語の指し示す意味が対応しないことは、ある程度以上外国語のトレーニングをした人はよく知っていることであろう。ここで次の2つの問いを立ててみる。
- なぜ日本語の「許す」は1~4のような意味に共通して使われるのだろうか。いいかえると、許可すること(1)と罪を許すこと(3)を同じことばで言い表すことに必然性はあるのだろうか。
- 英単語において、1,2,3,4の意味領域を「つなぐ」ような単語はないのだろうか。これもいいかえると、前の問いでいうところの「必然性」がもしあるとして、それを英語において示すことばはないのだろうか。
罰を免れて自由に行動すること
ここで先ほど言及した「恩赦」が手掛かりになる。
恩赦とは、「裁判によって確定した刑の内容を、特別な恩典によって減じたり免除したりすること」(学研現代新国語辞典第五版)である。これを手掛かりに、次のような「連想ゲーム」ができる。
- 刑罰を受ける義務を免除し(4)、
- 自由に行動することを許可する(1)ことによって、
- 罪をとがめることをやめる(3)
のである。一見すると異なる(1)の意味と(3)の意味は、「罰」を媒介にした連想によってつなぐことができる。
pardon me?
さて、英語ではどうかというと、forgiveの「類語」とされる単語にpardonがある。"Pardon me?"でおなじみのpardonである。この単語の動詞としての単独の意味をOALDで引いてみると、
- to officially allow sb who has been found guilty of a crime to leave prison and/or avoid punishment: She was pardoned after serving ten years of a life sentence.
- to forgive sb for sth they have said or done.
という二つの意味が出てくる(太字強調は筆者)。この一つ目の意味はとりもなおさず「恩赦」に対応するものである。そして 面白いことに、1つ目の定義には"allow"が、そして2つ目の定義には"forgive"が登場するのである。言い換えれば、pardonの意味内容は「許す」の意味内容のうち、(3)と(1),(4)にまたがっている(ただし、(1),(3),(4)の全体を覆うわけではない)ともいえるだろう。
まとめ
「赦す」と「許す」の意味内容は日本語では「ゆるす」という同音の一単語の中に拡がっているのに対し、英語においてはforgive, pardon, allowといった異なる発音の異なる単語が少しずつ重なりながら全体を覆っているように見える。
書いては見たものの
たとえばSC2であるビルドオーダーがミスに対して「forgivingである」と言い表すとき、それはそのビルドオーダーがミスを「許容してくれる」ことを指しており、学研国語辞典の「許す」の項目でいえば(2)に対応することになる。その点でforgiveがもっぱら(3)の意味を指すという主張は正しくない。というように多々雑な点がある記事であり、pardonに恩赦のような意味があるという個人的学びを書き記せば足りる記事だったのかもしれない。
ところで
- to officially allow sb who has been found guilty of a crime to leave prison and/or avoid punishment: She was pardoned after serving ten years of a life sentence.
の"allow"を"let"に置き換えることができるだろうかと考えると、筆者は違和感を覚える。その違和感が正しいかどうかはわからない。しかしもし正しいとすれば、それはなぜなのだろうか?